本日(2017年4月20日)の日本経済新聞の記事によると、財務省と国税庁は、会社が行う法人税と消費税の確定申告について、早ければ2019年度からインターネットを使った電子申告(e-Tax)を義務化する方針であり、2018年度税制改正で盛り込むことを目指すとのことです。これにより、官民ともに申告手続きが効率化されることが期待されます。
※ 2017年11月29日の日本経済新聞の記事によると、大企業の法人税電子申告義務化は、2020年度からの義務化で方針が固まったとのことです(2017年11月29日追記)。

大企業で電子申告の導入が進まない理由
電子申告の利用は、2015年度では法人税申告件数のうち75%だったとのことですが、資本金1億円以上の大企業では約52%にとどまっており、大企業ほど電子申告の導入が遅れているようです。
大企業は自社で確定申告書を作成していることが多い
大企業では、税理士の関与は、国税OBの相談のみで、確定申告書自体は社内で作成しているということが多いのが現状です。
電子申告開始当初は、税理士でも電子申告への抵抗感がある方が少なくなかったのですが、税理士業界では業務効率化のメリットが浸透し、税理士が関与しているケースのほうが電子申告を行っているケースが多いと言えるでしょう。
独自の経理・会計システムを構築している
大企業の場合、その会社に合わせて経理・会計システムを大幅にカスタマイズしていたり、会社によっては自社でシステム開発をしているといったところもあります。日本経済新聞によると、これが理由で、電子申告を使わないケースが目立つとのことです。
でも、これって本当でしょうか?経理・会計システムは独自というのはわかるのですが、確定申告ソフトを自社開発ってほぼないと思います。法人税は毎年のように様式も変わるので、そのたびに自社で開発って普通しないですよね。申告ソフトについては、市販のソフトを使っているところが多いと思います。
紙で決済する文化が根強くある
これは日本経済新聞で紹介されていた企業側のコメントです。個人的には、こちらが一番の要因だと思います。紙で決済している場合、経理部の税務担当者が作成し、部長の了承が得られれば、捺印申請を行って社印をもらって税務署へ提出という流れになります。
これが電子申告になると、社印をもらうのではなく、電子証明書での署名をもらうことになります。
「電子証明書での署名?決済のルールを変更しなければいけないじゃないか!大変だぞ」(電子署名のルール作りなどで、会議や社内規定づくりなどの手間が発生)
「電子証明書は誰が管理するんだ?法務部?経理部?それとも、総務か?いや、法定調書でも使えるから人事も関係するな。おい、どうするんだ?」(部署間での押し付け合いが始まる)
「電子署名は誰がやるんだ?うちの役員はパソコンで電子署名なんてできないぞ」
などなど、新しいことを始めるのが大変なのです。であれば、今までの紙での決済文化を守ろうということで、なかなか電子申告の導入が進みません。
紙での地方税申告を求める自治体がある
これも、日本経済新聞で紹介されていた企業側のコメントです。まあ、これは電子申告へ変更したくない言い訳に過ぎないでしょう。
今や、電子申告に対応していない地方自治体はごくわずかです。そして、電子申告に対応していない地方自治体には書面で提出し、それ以外の地方自治体には電子申告をすればいいだけですから。
業務の効率化への意識が薄い
個人的には、これも大きな要因の一つだと考えています。経理部のような管理部門の場合、どの仕事にどの程度の時間がかかっているかという意識が希薄になりがちです。特に、大企業の場合、経理の素人が人事異動で経理部長に就任ということもありますので、実務にどの程度時間がかかるか分かっていないことが往々にしてあります。
大企業であればあるほど、法人税の申告書の枚数が多かったり、地方税の提出先が多かったりするなどで、電子申告による業務効率化の効果は大きいのですが。
効率化すると経理部の仕事が減ってしまって人員削減されてしまうから、効率化はしたくないっていう声があったりもします。
電子申告義務化のメリット・デメリット
電子申告義務化のメリット
電子申告義務化のメリットとしては、申告書提出業務の効率化が挙げられます。書面での提出の場合、下記の手続きが必要であり、多大な人件費がかかってしまいます。
- 印刷
提出部数分だけ、確定申告書の印刷が必要になります。提出用と控え用の印刷を行い、提出資料が作成資料と同じかどうか、印刷漏れはないかどうか、最終版のドラフトと同じ内容の申告になっているかの確認をしなければなりません。 - 押印
確定申告書を提出するには、社内手続きとして捺印申請が必要です。地方に支店が多ければ多いほど、押印の量が増えていきます。以前、約300の地方自治体に確定申告書を提出したことがあり、申告書の準備だけでも3日間かかりました。押印するだけで手が腱鞘炎になりそうです。 - 自署
法人税や住民税・事業税の確定申告書は、自署押印です。本来であれば、代表取締役自ら署名しなければなりません。地方自治体300か所提出となると、当然、自署するのが困難になります。
社長さん、確定申告書にサイン(署名)していますか?<留意点> 平成30年度税制改正に伴い、2018年4月1日以後終了事業年度から法人税申告書への代表者自署押印制度は廃止されました。 下記の記事は2018年3月以前の制度となりますのでご留意くださいますようお願い申し上げます。 法人税の確定申... - 郵送による提出
確定申告書の提出先は、法人税であれば国、都道府県民税及び事業税は都道府県、市町村民税は市町村とそれぞれ提出先が異なります。大企業であればあるほど、提出先の数が多いため、提出先ごとに宛名印刷をし、切手を張った返信用封筒を封入して、それぞれの提出先ごとに簡易書留の手続きをします。
電子申告にした場合、上記の手続きは数分で完了させることが出来ます。慎重な確認作業やトラブル対応などがあったとしてもせいぜい数時間です。提出先が多いと数日かかる提出作業が、最大でも数時間で完了することが出来るのです。
また、電子申告をすることで、電子納税も可能になります。銀行に納付書を持ち込むことなく、会社にいながら税金の決済が可能になります。
国税当局としては、最大9年の保存期間のある確定申告書を保管するためには、膨大なコストがかかります。そして、そのコストを負担しているのは、我々国民です。ただでさえ、財政の厳しい日本なのですから、申告書保管のコストは、下げてあげたいものです。
電子申告義務化のデメリット
電子申告義務化のデメリットとしては、次のものが挙げられます。
- 申告書の間違いがすぐにバレる
国税が電子データで申告書をもっているということは、国税にとっても申告書のミスを発見するのが楽になります。必要な別表が添付されていない場合についても、すぐにバレてしまうでしょう。 - 社内の承認プロセスの再構築が必要
これまでは捺印手続きによって、確定申告書について代表者から承認を得ていたという手続きの流れを変更する必要があります。電子署名の管理も必要になりますから、会社側としては電子申告義務化に向けて確定申告書の承認プロセスを再構築する必要があります。
まとめ
電子申告のデメリットは、要は申告書を間違いなく正確に作っていれば気にする必要はありませんし、社内の承認プロセス作りは一時的なもので、その後の申告書提出業務の効率化のメリットを考えれば、大した問題ではないでしょう。これまで電子申告にしたかったのに、上司の決裁が下りなくて苦労していた中堅層や若手にとっては、煩雑な事務作業が軽減されることになりますので、歓迎すべきことといえるでしょう。
個人的には、電子申告義務化は歓迎すべきことと考えていますし、これまでも電子申告推進のため、いくつか記事を書いています。




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【編集後記】
セキュリティー強化の一環として、固定IPの取得をしました。1~3月の繁忙期も終えましたので、しばらく手を付けていなかったホームページの手直しなども進めていきたいと考えています。
【昨日の一日一新】
固定IP取得
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