これまで連結納税導入企業にとっては、連結納税加入時の資産の時価評価制度や繰越欠損金の切捨てによる税負担増加の懸念から、スクイーズアウト(少数株主の排除)を行うことに躊躇することが少なくありませんでした。
昨日(2016年12月8日)に公表された与党による平成29年度税制改正大綱によると、スクイーズアウトが組織再編税制に組み込まれることとなり、適格要件を満たす場合には、連結納税の開始又は加入時の資産の時価評価制度や繰越欠損金の切捨てが適用除外になるとのことです。
適格要件における対価の柔軟化
2017年度税制改正大綱の内容
吸収合併を行う場合に課税が繰り延べられるための適格要件の一つとして、下記の対価要件があります。
被合併法人の株主等に合併法人株式又は合併親法人株式以外の資産が交付されないこと
2007年5月の会社法改正により合併等対価が柔軟化され、現金交付の合併などが可能となりました。しかし、剰余金の配当や反対株主の買い取り請求に基づいて金銭等の交付をする場合を除き、金銭等を交付する合併等については適格要件を満たさなくなり課税が生じてしまうことから、現金交付型の合併等は普及が進みませんでした。
今回の税制改正では、合併法人が被合併法人の3分の2以上の株式を保有している場合や、株式交換完全親法人が株式交換完全子法人の3分の2以上の株式を保有している場合、その他の株主に対して交付する対価を除外して対価要件の判定をすることとなりました。
吸収合併及び株式交換に係る適格要件のうち対価に関する要件について、合併法人又は株式交換完全親法人が被合併法人又は株式交換完全子法人の発行済み株式の3分の2以上を有する場合におけるその他の株主に対して交付する対価を除外して判定することとする。
「平成29年度税制改正大綱」より引用
適格要件における対価の柔軟化でできるようになること
この改正により、適格要件を満たしたまま、キャッシュアウトマージャ―による少数株主の排除が可能になります。合併を例にとると、以下の通りとなります。
税制改正前
適格要件を満たすためには、S社の少数株主はS社株式と引き換えにP社株式を取得することになりますので、合併後もP社株主として残ることになります。
税制改正後
平成29年度税制改正後については、P社はS社の少数株主に対してP社株式を交付せず、金銭を交付することでも適格要件を満たすことができるようになります。S社の少数株主をP社の株主として迎え入れる必要なく、適格合併を行うことができるのです。
全部取得条項付種類株式、株式併合、株式売渡請求によるスクイーズアウトの組織再編税制への編入
2017年度税制改正大綱の内容
上述の通り、合併や株式交換については、3分の2以上の株式を有する子会社の少数株主に対して金銭を交付したとしても、課税の繰り延べのための適格要件に充足することが可能となりました。
今回の改正では、これに加えて、全部取得条項付種類株式、株式併合、株式売渡請求によるスクイーズアウトについても組織再編税制に編入されることとなります。これらのスクイーズアウトについても、適格要件を満たすことにより、課税の繰り延べが可能となります。
全部取得条項付種類株式の端数処理、株式併合の端数処理及び株式売渡請求による完全子法人化について、株式交換と同様に、組織再編税制の一環として位置づけ、次の措置を講ずる。
「平成29年度税制改正大綱」より引用
なお、適格要件を満たさない場合には、非適格株式交換と同様、完全子法人の有する資産の時価評価制度の対象となりますので、注意が必要です。
企業グループ内の株式交換と同様の適格要件を満たさない場合におけるその完全子法人となった法人を、非適格株式交換等に係る完全子法人等の有する資産の時価評価制度等の対象に加える。
「平成29年度税制改正大綱」より引用
全部取得条項付種類株式、株式併合、株式売渡請求によるスクイーズアウトとは?
全部取得条項付種類株式によるスクイーズアウト
全部取得条項付種類株式によるスクイーズアウトは、下記の手順で行います。
- 株主総会特別決議(議決権の3分の2以上による決議)により定款を変更し、種類株式発行会社となる
- 株主総会特別決議により、発行済みの普通株式を全部取得条項付種類株式(会社が株主総会特別決議を経ることで株主からその種類株式の全部を取得できる旨が定められた株式)に転換
- 株主総会特別決議により、会社が全部取得条項付種類株式を取得し、その対価としてA種種類株式を交付(交付時に少数株主への交付数が1株未満となるように調整し、1株未満となる株主に対しては株式の代わりに金銭を交付することでスクイーズアウト)
例えば、親会社が67%保有している子会社で、その子会社にはその親会社以外に株式の1%以上を保有する株主がいないといった場合、上記3で交付するA種種類株式は議決権1%につき1株交付という割合にすることで、親会社に67株交付、その他の株主はすべて保有比率1%未満のため現金交付となります。これにより、少数株主が排除され、親会社による100%子会社化が実現します。
株式併合
株式併合とは、株主総会特別決議により、既存の株式を統合し、発行済み株式数を減らす方法です。2015年5月施行の改正会社法により、スクイーズアウトとしての利用が可能になりました。
例えば、1,000,000株発行している会社の株式について、親会社が700,000株保有しており、その他の株主はすべて100,000株未満の保有とした場合、100,000株を1株とする株式併合を実施すると、親会社の保有株式数は7株となり、その他の株式の保有株式数はすべて1株未満となります。そして、その1株未満となる端株については、株式の代わりに金銭を交付します。これにより、株主は親会社のみとなり、少数株主を排除することができます。
株式売渡請求
株式売渡請求とは、会社の発行済株式数の90%以上を保有する株主が、残りの発行済み株式を強制的に取得することができる制度であり、2015年5月の改正会社法により創設されました。
親会社が90%以上を保有する子会社の少数株主を排除する場合、株式を強制取得し、その対価として現金などを交付します。
スクイーズアウトの組織再編税制化による連結納税への影響
2017年度税制改正大綱の内容
これまでは、連結納税導入企業が全部取得条項付種類株式、株式併合、株式売渡請求を活用したスクイーズアウトを実施して3分の2以上保有する子会社を100%子会社化した場合、その子会社の有する資産について時価評価課税の対象となることや繰越欠損金が切捨てになってしまうといった弊害がありました。
今回の改正により、スクイーズアウトが組織再編税制に組み込まれることになり、そのスクイーズアウトが適格要件を充足すると、連結納税加入時における時価評価課税制度や繰越欠損金の切捨ての適用対象外となります。
企業グループ内の株式交換と同様の適格要件を満たす場合におけるその完全子法人となった法人を連結納税の開始又は連結グループへの加入に伴う資産の時価評価制度の対象から除外するとともに、その完全子法人となった法人の連結納税の開始等の前に生じた欠損金をその個別所得金額を限度として、連結納税制度の元での繰越控除の対象に加える。
「平成29年度税制改正大綱」より引用
連結納税とは
通常、法人税の確定申告は企業ごとに行われるものですが、連結納税制度では、企業グループ全体で法人税額を計算して確定申告を行う制度です。
連結納税の対象範囲は連結親法人と100%の完全支配関係がある内国法人(外国法人を介して100%支配関係にある内国法人は対象外)です。
<例>
P社:所得金額1,000万円、S社(P社の100%子会社):欠損金額400万円
~単体納税の場合~
P社の法人税:
所得金額1,000万円×23.4%=234万円
S社の法人税:
所得がないため、ゼロ
P社とS社の法人税の合計:
234万円
~連結納税の場合~
P社とS社の法人税:
(1,000万円-400万円)×23.4%=140万4千円
∴ 連結納税のほうが93万6千円税金が安くなる!
適用時期
今回の記事でご紹介した改正は、2017年10月1日以後からの適用となります。
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【編集後記】
昨日は、とあるセミナーを受けるため、久々に母校のある三田へ行きました。三田と言えば「二郎ラーメン」ですが、並ぶ時間とお腹の余裕がなかったため、むらさき山というラーメン屋でお昼を食べました。
【昨日の一日一新】
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