発生主義と現金主義。現金主義の方が楽チンだけど発生主義にしないといけない

2020年4月5日


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起業して直面するのが経理をどうするかということです。経理と言っても、お金を受け取った時と支払った時に記録を付ければいいだけなんだから、面倒くさいけど楽勝でしょと考えてしまう方もいますが、実はそうはいかないのです。

税務上、現金主義は認められない

売上の認識のタイミング

起業すると、個人事業主であれば、その事業から発生した利益に対して所得税が課税され、法人であれば、その法人の事業から発生した利益に法人税が課税されます。

そして、その利益の計算上、売上として認識しなければいけないのは、お金をもらった時ではなく、お金をもらう権利が確定した時です。

売上の会計処理

例えば、個人事業主であるコンサルタントが12月に提供したサービスに対して12月末に請求書を発行して、1月末に普通預金への振り込みで代金を受け取ったとしましょう。

この場合、その個人事業主は12月に売上を認識しなければなりません。12月に下記の会計処理を行います。

(借)売掛金 xx (貸)売上 xx

そして、代金の受取時に、次の会計処理を行います。

(借)普通預金 xx (貸)売掛金 xx

費用の会計処理

費用についても、支払のタイミングではなく、その発生のタイミング(商品などの引取り時やサービスの提供時など)に認識することになります。

12月にサービスの提供を受けて、1月に支払った場合、下記の通りの処理となります。

<12月>

(借)費用 xx (貸)未払金 xx

<1月>

(借)未払金 xx (貸)普通預金 xx

現金主義で処理した場合

お金の出入りのみで処理をする現金基準で会計処理をした場合、12月には処理をせず、1月に次の会計処理を行うことになります。

(借)普通預金 xx (貸)売上 xx

現金主義の場合、通常、2本の会計処理が1本になるので、楽チンですよね。しかし、この会計処理を行って税務申告をすると、12月分の売上が申告漏れてなってしまい、追徴課税を受けてしまいます。

税務調査で発覚した場合には、本税に加えて次のペナルティを支払わなくてはなりません。

  • 本税の10%(本税が50万円を超える場合にはその超える部分に対しては15%)の過少申告加算税
  • 税金の納付が遅れたことによる延滞税(納付が遅れた金額に一定の割合(平成29年分であれば最初の2月は年2.7%、それ以降は年9%の割合)を乗じて計算)

関連記事:

【売上の計上基準】売上げはいつ計上するべきか?~税務調査で否認されないために~

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現金主義が採用できる場合~個人の小規模事業者のみ採用できる~

ただし、青色申告を行っている小規模事業者である個人事業主についてのみ、現金主義による所得計算が認められています。

小規模事業者とは、次の通りです。

小規模事業者とは、その年の前々年分の不動産所得の金額及び事業所得の金額(事業専従者給与(控除)の額を必要経費に算入しないで計算した金額)の合計額が300万円以下である方のことです。(国税庁ホームページより引用)

ただ、現金主義を採用している場合には、青色申告特別控除が10万円となってしまいます。一定の要件を満たしている青色申告者であれば65万円の控除ができますので、その差は55万円です。

所得税の課税が最低税率の場合でも、

55万円×(所得税率5%+住民税率10%)=82,500円(※ 復興所得税は考慮外)

の負担増となります。

現金主義ではできないことがある

会社の業績が管理できない

現金主義の場合、お金の授受で収益・費用を認識します。しかし、お金の授受というのは、仕事をしたタイミングやサービスの提供を受けたタイミングとは異なります。

そのため、会社の業績を適切に管理することはできません。

債権・債務が管理できない

売上や費用を発生したタイミングで処理した場合、その売上に関してちゃんと入金がなされているか、支払についてきちんと行われているか、会計データを見ることにより管理することができます。

現金主義の場合、会計データで債権債務が管理できなくなってしまいます。すると、請求書を送ったにもかかわらず入金が未済であるものに気付かなかったり、気付くのが遅れてしまったりしてしまいます。

いやいや、会計データでなくて別に管理するから、という方もいらっしゃるかもしれません。ただ、別で管理というと手間が増えてしまいます。

売上総利益率が会計データで計算できない

商品の入庫や在庫が会計システムに入力されないため、原価率や売上総利益率が会計データからは把握できません

そのため、価格設定が適切だったのかがわからなかったり、異常な減耗(盗難や紛失など)が発見できなかったりします。

いやいや、それでも現金主義で十分という方は…

とはいえ、会社の業績は比較的安定、債権債務もあまり抱えておらず管理が楽、在庫リスクのない事業を行っているといった場合には、まずは売上だけでも発生ベースで計上してみてはいかがでしょうか。

支払の遅れは督促があるので何とかなるかもしれませんが、未収代金の回収漏れは、下手すると貸倒れに繋がってしまう可能性があります。

また、発生ベースで売り上げを計上しないと、追徴課税のリスクが生じてしまいます。

まずは売上を発生ベースで計上することからスタートしてみましょう。

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【編集後記】

簿記の勉強経験があれば、収益や費用の認識は現金主義ではなく発生ベースでというのは、当たり前のことと思いがちです。ただ、事業を始めて自分の会社の経理のためだけに会計処理をするという方にとっては、発生ベースで収益や費用を認識するというのに抵抗があるようです。その抵抗が和らぎ、発生ベースでの収益・費用の認識への理解に役立てばと思い、この記事を書きました。

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