税率の低い国所在の子会社に課税するタックスヘイブン税制とは?

国際税務
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今日(2017年11月28日)の日経新聞の一面に「税逃れ対策強化 企業・富裕層の海外所得」という記事が掲載されていました。記事の内容は、以下の通りです。

政府・与党は2017年度税制改正で企業や富裕層の国際的な課税逃れを防ぐ対策を強化する。事業実態のない海外子会社が得た配当や知的財産などの所得は原則、日本の所得に合算して日本の税率で税を課す。(2017年11月28日 日本経済新聞 朝刊より引用)

これまでもタックスヘイブン税制により、過度に税率が低い国に所在する海外子会社の所得については、日本で合算課税されてきましたが、今後は過度に低い国に限らず、日本よりも税率が低い国の海外子会社であれば、実態がない場合には合算課税するという方向での税制改正を目指しているとのことです。

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タックスヘイブン税制とは?

タックスヘイブン税制の対象となる外国子会社

日本で合算課税されるかどうかを簡単な表にしてみました。

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(注) かなり簡単に書いていますので、詳細が気になる方は税理士に確認しましょう。

では、具体例でみてみましょう。

2016-11-28 (2)

 

<A社の場合>

シンガポール法人であるD社は、A社から50%、B社から5%の出資を受けています。

つまり、日本企業から55%出資を受けていますので、日本人or日本企業から50%超の出資という要件を満たしています。

また、D社が所在するシンガポールの所得に対する税率は17%ですので、税率20%未満という要件も満たします。

A社はD社へ50%出資していますので、最後の10%以上出資という要件も満たすことになります。

したがって、A社はD社の所得1000万円の50%、つまり500万円を日本での課税の対象としなければならないのです。

<B社の場合>

D社は日本からの出資が50%を超えており、所得に対する税率も20%未満ではありますが、B社のD社への出資比率は5%であり、10%未満となっています。

したがって、B社ではD社の所得を合算課税する必要はありません

適用除外の要件

上記のケースでは、原則としてA社はD社の所得について合算課税する必要があるのですが、例外もあります。次の要件のすべてを満たした場合、A社はD社の所得を合算課税する必要はありません。

  • 主たる事業が株式等や債券の保有、工業所有権その他技術に関する権利などの提供、船舶、航空機の貸付けではないこと(事業基準)
  • 本店所在地国に主たる事業に必要な事務所などの固定施設を所有していること(実体基準)
  • 本店所在地国において主たる事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること(管理支配基準)
  • 対象業種(卸売、銀行、信託、金融商品取引、保険、水運、航空運送)のいずれかの事業を、主として関連者(50%超出資会社等)以外のものと行っていること(非関連者基準)
    or
    上記の対象業種以外のいずれかの事業を主として本店所在地国で行っていること

なお、適用除外とするためには、確定申告書に適用除外基準をみなす旨を記載した書面を添付し、かつ、それを明らかにする書類等を保存している必要があります。

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確定申告での書類添付や必要書類の保存がない場合、適用除外を受けることはできませんのでご注意ください。

また、適用除外を満たす場合でも、株式や債券の運用に係る所得や、ロイヤルティー、船舶または航空機の貸付けなどの所得については、それが少額である場合を除き、合算課税の対象となります。

二重課税の排除

外国税額控除でシンガポール納付の法人税は日本の法人税から税額控除できる

上記のA社の場合、D社の所得のうち500万円を日本で合算すると、その500万円については二重課税が生じてしまいます。日本での税率を30%と仮定すると、日本で150万円課税されることになるのですが、そもそも、シンガポールでの所得ですので、シンガポールでも500万円の17%相当額である85万円の法人税が課税されています。

そうなってしまうと、今度は税金の取りすぎですよね。500万円の所得に対して235万円も課税されてしまうと43%の高税率になってしまいます。

そこで、シンガポールで課税された法人税85万円は、外国税額控除制度により、日本の法人税から差し引くことができます。

シンガポール法人D社から配当を受けたときの二重課税も排除される

<外国子会社益金不算入制度の概要>

日本では、外国子会社益金不算入制度により、6月以上継続して25%(租税条約によってはこれ以下の場合もある。)以上出資している外国子会社からの配当については、その所得のうち5%だけが課税対象となります。

例えば、この制度の適用対象となる外国子会社から1000万円の配当を受領した時、950万円は益金不算入となり、日本での課税対象は50万円だけとなります。

<タックスヘイブン税制により合算課税を受けた所得について配当を受ける場合>

タックスヘイブン税制により合算課税を受けた所得は、すでに日本で課税されています。すでに日本で合算課税された所得を日本に配当した時、上記の外国子会社益金不算入制度を適用すると、すでに日本で課税された所得に5%の課税が上乗せされることになってしまいます。そこで、すでに合算課税を受けた所得の配当を受けた場合には、その5%分についても課税されることなく、100%益金不算入となります。

2017年度税制改正でタックスヘイブン税制の対象が拡大?

本日(2016年11月28日)の日経新聞によると、2017年度税制改正で、「20%未満となっているトリガー税率」の廃止と「出資比率の基準の見直し」が検討されているとのことです。

20%未満となっているトリガー税率が廃止される?

合算課税の対象となる外国法人の基準の一つが、低税率国であること(所得に対する税金がないことを含む。)です。その低税率国であることの基準となるトリガー税率は、世界的に進んできた法人税率の低下に伴って、日本でも低下してきていました。

2010年度税制改正で「25%以下」から「20%以下」となり、2015年度税制改正で「20%以下」から「20%未満」と低下傾向であったのが、国際的な税逃れの取り締まり強化の流れに伴い、今回は一転して「20%未満の税率であっても日本の税率以下であれば課税する」というスタンスに変わるようです。

もちろん、経済界からの反発も大きいため、これに配慮する形で下記の方向で議論されているとのことです。

事業実態がないと判断できる海外子会社が得た配当や知的財産、ロイヤルティーといった所得は日本の税率で課税(2017年11月28日 日本経済新聞 朝刊より引用)

出資比率の基準の見直し?

また、出資比率の基準についても見直しが検討されているとのことです。政府が問題視しているのは、次のようなケースです。

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ケイマン諸島は、法人の所得に対する税金がないタックスヘイブンの象徴ともいえる地域です。

上記の場合ですと、G社は日本からの出資比率が50%であり、タックスヘイブン税制の対象から外れます。G社の所得のうちE社分の500万円については合算課税の対象とはなりませんから、配当を受けたときに1000万円の5%相当額である50万円が課税対象になるだけです。仮に日本の税率が30%とすると、法人税等の負担は15万円です。

税率はなんと!

15万円/1000万円=1.5%になります。

50%超という基準を下げることにより、このような税逃れを防ぎたいというのが政府の思惑です。

税務申告の負担は増加?

上記のようなタックスヘイブン税制の見直しが実現すると、税務申告の手続きが増える可能性があります。対象国・地域が「中国や韓国など約40カ国・地域が新たに対象に加わる」(2016年11月28日 日本経済新聞 朝刊より引用)とともに、出資比率基準の見直しにより、対象となる外国子会社の増加が想定されます。

これまでタックスヘイブン税制は、適用除外であっても、その旨の書類添付と書類保存が必要になりますから、税務手続きの煩雑化が想定されます。

税逃れを防ごうとすればするだけ税務手続きは煩雑になりますので、簡素な税制って難しいですよね。

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【編集後記】

週末は娘2人がスポーツクラブの合宿でいなかったので、妻と9か月の長男と3人で過ごしました。小学生二人がいないので早朝に築地市場へ向かったところ、日曜日は市場が休みと判明…。そして、午後から体調不良…。抜け駆けはよくないってことですかね。

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※この記事は、投稿日現在の状況、法令に基づいて書いています。

また、ブログの内容等に関する質問は、受け付けておりませんのでご了承ください。

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